斎藤剛史の教育ニュース観察日記

アクセスカウンタ

zoom RSS 高校の履修不足・必修逃れで問われること

<<   作成日時 : 2006/10/28 05:06   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 6 / コメント 2

高校の単位履修不足問題は、雑談でスルーつもりだったのですが、マスコミの扱いがこれほどになってくると、何もしないわけにもいかないですね。

○高校必修逃れ、35都道県249校に拡大(読売新聞)
○受験重視、指導要領と溝 「必修漏れ」拡大(朝日新聞)

などなど、各紙派手にやってます。問題の中心はやはり世界史らしいですね。必修教科の「情報」も多いかと思いましたが、意外に少ない。現行学習指導要領での新教科なのでごまかしがきかなかったのでしょう。

○世界史必修は中曽根首相の一声で決まった。
 まず、なぜ世界史が必修になったのか説明しておきましょう。高校の社会科が廃止され、地理歴史科と公民科になった平成元年度告示学習指導要領から世界史は必修(正確には必履修ですが、面倒なので必修としておきます)になりました。ちなみに、このときから高校には社会科という教科はなくなりましたが、そんなこと意識していない人が多いですね。

 これを決めたのは文部省の教育課程審議会ですが、実質的には審議中に総理大臣だった中曽根首相です。

 教育課程審議会では、当初、高校の社会科を廃止することも、世界史を必修とすることも議題には上がっていませんでした。そういう意見もありましたが、当時の文部省の担当課長は明確に否定しました。ところが、当時の高石邦男文部事務次官が首相官邸に呼ばれて、帰って来てから以降、教育課程審議会は高校の社会科廃止、世界史必修を唐突に検討し始め、担当課長の突然の交替人事が行われました。

 社会科という戦後アメリカに押し付けられた教科について、もともと中曽根首相は批判的だったこと、高校の実態が科目単位であり社会科の枠を外しても実害がなかったこと、当時、急速に国際化が進む中で世界史的教養が日本人に必要だと判断されたことなどが理由です。

 一説には、中曽根首相のブレーンの一人だった有名な歴史学者の東大教授が、自分の専門である西欧史を学生がまったく知らないのに激怒して、それを中曽根首相に話したことが発端だったといことです。まあ、たぶん、当たらずとも遠からずのことがあっのでしょう。



○世界史などの必修逃れは公然の秘密。
 今回、なぜこんなに必修の逃れが出てくるのかと不思議に思う人が多いという話ですが、理由は簡単です。世界史必修になったときから既に始まっているからです。というより、高校の裏カリキュラムはその前から存在します。

 適当な例えではないですが、いわば公共事業受注の「談合」のようなものです。法令違反だけど、みんなやっている、みんな黙っている、しかも、あったほうが現実的に都合がよい。まあ、談合は犯罪ですけど。

 裏カリキュラムを組むのは、進学校、特に県内で三番手、四番手クラスの高校が多いのです。あと少し国立大学合格者を増やすと、学校全体がステップアップできるというような高校ですね。

 で、これは業界の常識。高校関係者、校長会、都道府県教委、文部科学省、、、、すべて知っています。それを今さら、何もしらないふりをして調査だなんだと言っているのは、、、欺瞞ですね。


○私立も当然やっているが、誰も手が出せない。
 必修逃れは、公立高校だけのはずがない。当然です。伝統校はともかく、特進コースの設置など急速に進学率を伸ばしている学校でやっていないはずがない。常識で考えても分かります。でも、私学は学習指導要領を守らなくてもいいから問題はない、、、、、そんなことはありません。学校教育である以上、私立学校も学習指導要領を順守する義務があります。ただ、宗教教育ができるなどの特例があるだけなのです。

 では、マスコミは公立の次に私立を槍玉にあげるか。やりません。というより、できないのです。ほとんどの都道府県では、私立学校は教育委員会ではなく総務部など知事部局の管轄になっています。各学校はカリキュラムを届けてますが、担当課は私学補助金の交付が中心業務で、施設や教員・生徒数などのチェックはしますが、教育内容についてはほとんどタッチしませんし、それができる専門家もいません。つまり、私学でどんなカリキュラムが行われているのかをマスコミが調査するには、各学校の実際の時間割を集めなければならないのです。こんな作業できません。

 また、私立学校はマスコミにとって、大事な広告主の一つでもあります。マスコミだけでなく役所も手が出せません。具体的な不祥事が発覚していれば別ですが、へたに動けば、私学の自主性を損ねることになる、、、というより永田町からすぐに横槍が入るのは目に見えているからです。私学団体は、大きな集票マシーンでもあります。


○でも、やはり学習指導要領違反はいけない、、、、か。
 学習指導要領に違反してるのは確かなので、裏カリキュラムがいけないことは間違いありません。公然の秘密でも、談合と同じにばれてしまえばそれまでです。関係者は、運が悪かったと思ってあきらめてもらうしかないです。たとえ、偉そうに注意して処分を下す県教委の幹部が、そもそも高校長だったときにはじめたものであっても。


で、ここからがようやく本論。

○高校の公私間格差はこれでますます拡大する。
 文科省は都道府県教委に学習指導要領の徹底を指示しました。しかし、私立学校に対してはおそらく、知事部局を通して学習指導要領を順守するよう通知するだけで終わりでしょう。

 「ゆとり教育」批判や学力低下批判で急速に高まった私立志向は、この件でさらに拍車が掛かることになりでしょう。保護者からすれば、公立高校では大学受験に関係ないことに時間をかけすぎているというふうに受け止められるわけですから。

 同じ公立でも学習指導要領の特例がある公立中高一貫校の設置も、これでさらに増えることになるのではないでしょうか。


○この時期にこんな大騒ぎをする意図は何か。
 発端となった富山県の報道は、最初、囲み記事であまり大きな扱いではなかったようです。つまり、報道した側もニュース価値の判断に迷っていたわけです。ここで、終わればこんな騒ぎにならなかったでしょう。

 ところが、各紙、一斉に追いかけて一面トップ扱いするようになった。文科省の対応も、おそらく教育関係に暗い伊吹文科相が過剰反応したことが原因ではないでしょうか。ただ、ここまでマスコミが騒ぎを大きくすると、それを利用しようという動きが出るはずです。


 ここからは全くの邪推、推測です。私の勝手な妄想で、根拠はありません。

○日本史必修化に向けた動きではないか。
 愛国心や伝統文化の問題に絡んで、東京都の石原知事をはじめとして日本史必修化の声が出ています。しかし、現行の世界史とあわせて、日本史も必修にするのはどう考えても無理です。

 大学受験のために学習指導要領違反をする公立高校がこれだけあるというのは、そもそも世界史必修が間違っていたのではないか。でも、歴史教育は必要だし、大学入試でも選択する生徒は断然おおいから日本史必修でよい、、、、、ということになる、、、かも。


○地方分権で最近暴走気味の都道府県に文科省がくぎを刺したということも。
 義務教育費国庫負担金の扱いで対立したように、最近は文科省と都道府県の対立が目立ってきています。例えば、文科省は公立小・中学校の教員人事権を市町村に下ろそうとしていますが、都道府県は強く反対しています。

 地方分権の掛け声で文科省を無視して独自に動き始めた都道府県に対して、ここで一つくぎを刺しておこうということも、、、、、、、あり得ない話ではないでしょう。


○教育再生会議の目玉にできるかもしれないという思惑も。
 具体的中身もないのに教育改革をぶち上げた安倍政権。教育再生会議は、発足前にはいろいろ騒がれましたが、初会合以降、どうも盛り上がりに欠ける。

 ここは、全国民にアピールできる材料がほしいな、、、、、よし、これに乗った。安倍首相のコメントなどをみると、こんな感じもしますね。



最後は、もっともらしい話を。

○高校の必修教科・科目の理念の際検討が必要。
 これほど学習指導要領違反の実態があることが分かった以上、次期学習指導要領での必修科目が見直されるのは確実です。

 しかし、問題は世界史だけではないはずです。例えば、医学部を受験するのに生物を学んでいない生徒がいると問題になったのはつい最近です(現在はセンター試験見直しで解決しています)。またカリキュラムしだいでは、二次方程式をまったく勉強しなくても数学の必修をすますことができます。

 この問題は、大学入試に関係することだけではありません。

 つまり、高校生、というよりほとんどの国民(市民といってもよい)が、最低限学んでおかなければならない教育内容習は何なのか、、、、ということです。

 今回の騒動は、このまま大学入試絡みの問題だけで高校の必修が語られるのか、それとも国民・市民として必要な「教養」「共通の知的基盤」とは何かという問題まで踏み込む契機となるのか、、、、、それが問われているのだと思います。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(6件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
今こそ武士道の復活を
「武士道」って聞くとどんなイメージがあるんだろう? ...続きを見る
七星 来人
2006/10/29 00:18
高校生がかわいそう
 驚いた。 ...続きを見る
教育の窓・ある退職校長の想い
2006/10/29 10:57
履修不足?2006年の運勢だね
丙(ひのえ)で、太陽が真上にきたような運気だから、すべてがあからさまになるとういうか、影もなくなるというか、隠し事はばれるし、良くも悪くもはっきりしてくるんです。 ...続きを見る
占い師不要のラクラク占い術
2006/10/29 11:41
高校履修単位不足問題、全国に広がる
 高校での履修単位不足問題で、必修科目の未履修など不適切な扱いをしていた高校は、文部科学省や各都道府県教委・新聞社などの集計を総合すると、判明した分だけでも41都道府県・約400校(10月28日現在)にのぼって& ...続きを見る
きょういくブログ
2006/10/29 15:49
なんのヒネりもなく、公立校教師を敵に回す。
ぶっちゃけ、いわゆるまあアレですよ、履修単位不足問題。 補修受けなきゃいけない対象生徒達は気の毒な話だが、ある意味政府の減免措置を受ければ通常授業で受験科目を満額以上受けた上に、受験不要科目を必要時間以下の単位で卒業できるから、ある意味ラッキーだと考えようねとでも言っておきますかね。 それでも怒りは納まるまい。 僕なら怒り心頭に発するね。 しかして 主犯である学校側は一切のお咎め無しとはどういうことだ? 世の中のやさしい人たちは『学習指導要領違反』だと指摘しているけれども、厳密には有... ...続きを見る
てんこの「誰が読むんだ?」そんな日々
2006/11/02 01:49
高等学校卒業程度認定試験の概要
高等学校卒業程度認定試験は、様々な理由で、高等学校を卒業できなかった人たちの学習成果を適切に評価し、高等学校を卒業した者と同等以上の学力があるかどうかを認定するための試験です。 ...続きを見る
高等学校卒業程度認定試験で大学入試を目指...
2007/03/07 00:49

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
 TBさせていただきました。よろしくお願いします。
『これで公立、私立の格差がますます増大する。』は、ほんとうにそうでしょうね。嘆かわしく思います。私立を強く指導するよう国は努力すべきだと思いますが、やはり無理なのですね。
 学校五日制を厳守させるよう指導してほしいのですが、これもやはり無理なのですね。
 せいぜいこうしてブログで、訴えていくしかないようです。
 わたしのような立場の者がそうそう憤る必要もないのですが、今回だけはちょっとね。言ってみたくなりました。
toshi
2006/10/29 11:07
履修不足問題にたいして有意義な知見を得ることができました。
ところで大学受験のため、大検を利用する学生が増えていると聞いたことがありますが、実態はどうなんでしょうか。
JohnLemon
2006/11/03 15:00

コメントする help

ニックネーム
本 文
高校の履修不足・必修逃れで問われること 斎藤剛史の教育ニュース観察日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる