斎藤剛史の教育ニュース観察日記

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zoom RSS 履修不足・必修逃れQ&A

<<   作成日時 : 2006/10/29 14:32   >>

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 今日も起きて新聞をみたら、また高校の履修不足・必修逃れはさらに大きな扱いに。あるブログでは耐震偽装になぞらえて、『教育偽装問題』と名付けていました。うまい、、、いや、感心している場合ではない。

 ネットをいくつか回ってみると、いろいろと共通する疑問も多いようなので、私なりにそれに答えてみようと思います。


 ○こんなに規模が膨らんでいるのに、教委や文科省は知らなかはずはないのでは?
 ▲そのとおりです。関係者にみんな知っていました。
 役所に届けたカリキュラムと違うカリキュラムを裏カリキュラム、通称「裏カリ」と呼びますが、公立進学校では常識です。新聞を見ると、県教委の教育長自身が浦カリのある高校の校長経験者だったという記事もありますね。

 で、裏カリは通常の高校では組みません。やっても意味がないからです。よって裏カリに関係した人間は、進学校、名門校などの関係者ということで、当然、県の校長会役員、教委幹部などになります。自ら問題にできる構造になっていないのです。

 一方、私学は、役所に届けるカリキュラムは形式的にもので、自由にやってよいと思っているところも多く、裏カリという認識そのものがほとんどないようです。



 ○なぜ、岩手県など東北地方や一部県が突出して多いのか。
 ▲県の歴史的経緯に関係します。
 東京都が日比谷高校などを進学指導重点校に指定して、進学重視を打ち出したときに全国的に注目を集めましたが、じつは以前から「学力向上推進研究校」などの名称で、同様の研究指定校は全国的に行われていました。東京都は、モロに進学を表に出したので注目されただけです。

 中でも、岩手県など東北地方、北海道は、大学進学率が全国平均を大きく下回っており、進学率の向上が県教委の大きな方針としてずって掲げられていました。

 すこし事情は違いますが、長野なども教育熱心な風土があり進学率アップに県を挙げて取り組んでいます。

 逆に東京都は、従来から私学が強く、都立高校は進学シフトをあまり組んでいません。さらに、教職員組合との関係でカリキュラムその他の都教委によるチェックが大変厳しく、裏カリはほとんどない(少なくとも23区では)といえます。

 ☆北海道出身の知り合いから「北海道の公立は学力向上など考えていない。教員が学習指導要領を守る気がないだけです」というご意見をいただきました。



 ○高校にあるのだから、小・中学校でもあるのではないか。
 ▲小・中学校に裏カリはありません。
 それは、カリキュラムが高校は単位制、小・中学校は授業時間数制をとっているためです。小・中学校は義務教育なので高校のように教科・科目ごとに修得認定するという考え方をとっていないのです。現実的には出席日数さえ満たしていればよいのです。

 あるとすれば、学校行事などの関係で特定の曜日(ほとんど月曜日ですが)に授業がつぶれることが多く、その教科の授業時間数が足りなくなる場合、目をつぶるということがありえます。しかし、高校と違って単位制ではないので、法令違反とまではなりません。


 ○私学も学習指導要領違反を問うべきなのに、なぜ対応が遅いのか。
 ▲教育行政の仕組み、さらに私学の自主性尊重という基本原則があるからです。
 ほとんどの都道府県では、公立高校は教委、私学は知事部局の管轄です。しかも、知事部局は私学補助金の交付が仕事で、カリキュラム自体にあまり関与しません。

 大昔、塩爺こと塩川正十郎氏が文部大臣のときに、私学行政を都道府県教委に一元化することを提案しましたが、文部省も都道府県も動きませんでした。

 私学のカリキュラムに踏み込むことは、私学の自主性尊重という理念を冒すおそれがあり、しかも私学団体は国、地方の政治家につながっているので、不祥事でもない限りなかなか手が出せないというのが実態です。例年、年末予算編成で私学補助金はいつも最後の大臣折衝の議題であり、私学大会では多数の政治家が応援に駆けつけるところを見ても分かりますね。


 ○でも、伊吹文科相は、私学の調査を命令したのではないか。
 ▲教育関係に暗い大臣の暴走、もしくは単純な正義感でしょうか、、、、。
 私も伊吹文科相の真意が分かりません。たぶん、私学団体関係者は週明けまで自民党の重鎮たちにあって、対応を協議しているでしょう。

 森元首相が、学習指導要領の不足単位履修を主張する伊吹文科相の発言に対して、子供たちのために寛大な措置が必要だと述べたようですが、そろそろ火消しに動いているような気配がします。


 ○学校五日制やゆとり教育に原因があるのではないか。
 ▲直接的には関係ありません。
 裏カリの中心である世界史が必修になったのは、平成元年告示の学習指導要領からです。ちなみに、同時に男子の家庭科必修も行われています。

 学校五日制導入で、授業時間数が足りなくなったというのは一つのきっかけに過ぎません。また、現行学習指導要領は学校五日制でも単位数がクリアできるように設計されています。

 つまりは、ゆとり教育とは関係なく、大学進学率を上げたい進学校が裏カリを組んでいるだけです。ゆとり教育の結果ならば、大半の高校が裏カリを組んでいるはずです。


 ○学校間の競争主義導入、特色ある教育が原因ではないか。
 ▲確かに、それは原因の一つでしょう。しかし、あくまで一つです。
 学校評価で進学率アップを掲げる進学校が多く、それが校長の経営評価につながるとなれば、裏カリが組まれるのは当然の成り行きでしょう。

 しかし、教育の特色とは進学率アップだけではないはずです。進学校の特色化が、進学率アップだけということに問題があり、敷衍すればそれを求めた保護者や生徒、社会にも責任があります。


 ○単位不足の生徒はこれからどうなるのか。
 ▲たぶん、特例的な措置がとられると思います。
 伊吹文科相は、厳格に補習させることを考えてたようですが、センター試験が迫りつつある時期に無理でしょう。やれば、逆に国民の批判を受けるのことは確実です。

 さらに、履修不足・必修逃れが、10年以上前にさかのぼっているので、既に卒業した者たちの認定まで取り消すことは不可能です。だとすれば、卒業していればオーケー、運悪く卒業していなければアウトでは、それこそ公平さに欠けるでしょう。

 じつは、特例が効くような仕組みもないではない。高校の現行学習指導要領は、履修と修得を分けて考えています。必修科目は、正確には必履修科目であり、履修していればよく、修得しなくても全体の卒業必要単位数さえ満たしていればよいのです。そうすると、純粋に単位数不足で卒業できなくなる生徒は、報道よりも少なくなるはずです。卒業に支障を来たす生徒が多いのは、必修科目を修得していないと卒業を認めないと各高校が学則で決めているか、あるいは学習指導要領よりも多めに卒業認定単位数を設定しているからではないでしょうか。

 単位の修得認定は無理でも、生徒の学校外活動やレポートなどを便宜的に履修時間数にカウントすれば、履修したと認めることはできなくもないと思います。

 私学の問題にマスコミが踏み込む(私はこれ以上マスコミも手を出すとは思えませんが)よりも前に、最終的には安倍首相の責任で罪は教育行政にありと謝罪し、子供は放免するのが政治的判断としては、是非は別にしてベストと判断されるのではないでしょうか。


 ○何でいままで問題にならなったの。
 ▲教育関係者が「仕方ない」「必要悪」だと思ったから、というより大したことではないと認識していたからです。
 じつは、履修不足・必修逃れがマスコミで報道されたのは、これが初めてではありせん。いままでも、たびたび報道されてますが、ローカルニュースどまりでした。

 教育関係者も、「みんなやっていること」「あの校長は裏カリで進学率を上げて、教委幹部に出世した」など、ほとんど罪の意識がなかったのです。このへんは、「談合は現実的に地元経済界を支えている」という建設業界の体質と同じものがあります。

 それが、なぜ今回は、各紙とも全国ネタとして執拗に追いかけたのか。
 中には、私学にまで独自調査しているところもありますが、これはなぜか。

 談合が悪だと認識され社会的に糾弾されたように、この問題を受け止める社会全体が変わってきたことが、大きな原因でしょうか。それよりも、もっと別な背景が動いているのでしょうか。今のところ私には分かりません。


 ○これから教育改革はどうなるのか。
 ▲(これは根拠なき私見ですが)伊吹文科相が絶対補習の悪玉、安倍首相が特例措置発動の善玉を演じれば、教育改革の主導権は一挙に安倍首相が握ることになるのでは。
 まず、人気低迷気味の教育再生会議にも国民の衆目が集まります。

 騒ぎがここで収まると仮定すればですが、私学団体は首相に大きな借りをつくることになるでしょう。

 地方分権の推進で独自路線を走りつつあった都道府県は、公立高校についても国の力はこれほど大きいのだと見せ付けられたことで、国の教育改革方策に異議を唱えることに慎重になるのではないでしょうか。

 なんか、今の騒ぎをみていると、郵政民営化の論議を善玉、悪玉で国民が判断した結果、気がついたら国民自身の首が絞まっていたという状況の二の舞になるような気がします。

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
中学校でも問題はあると思いますよ。
5教科はともかくとして
4教科の時間数なんかいい加減だったり
免許を持っていない教師が
臨免申請なんていい加減な制度の下
教えてたり
私学では技術の授業をコンピュータしか
教えてなかったり
などなど
調べれば中学でも問題になることは
いろいろあると思いますよ。
pandaba
2006/10/29 21:36
 なるほど、そういうこともあるのですね。やはり私は、直接現場を知らないものですから。
 ただ、実技系教科などは中学校でも時間割段階から標準授業時数を割って作成をするのでしょうか、それとも年間スケジュールの調整で結果的に削るのでしょうか。後者ならば、学習指導要領から逸脱しているともいえないと思います。臨時免許も問題ではありますが、合法的なものですし。
 まあ、各教科の内容や領域の扱いなど細かに見るといろいろあるのでしょうが、それこそいわゆる「現場の裁量」ってやつでは。そこまで突っつくと、それこそ現場が困ると思います。

 あと、北海道出身者からエントリーの中の北海道の記述は誤りで、「北海道の公立は学力向上など考えていない。教員が学習指導要領を気にしていないだけです」というご意見をもらいました。そうなんですか、、、
カラ
2006/10/29 22:10
はじめまして。
toshi先生のブログから、お邪魔しました。

こちらの記事が、とても、興味深く、素晴らしいので、出来ましたら、私のブログのほうで、ご紹介させていただても、よろしいでしょうか?
宜しく、お願いいたします。
なるほど♪ママ
2006/11/01 14:11
引用、トラックバック、リンク、その他ご自由にどうぞ。
ここは、ビッグローブのブログ会員以外、コメントでリンクが貼れないようなので、あとでトラックバックをつけてください。こちらからも訪問させていただきます。
カラ
2006/11/03 13:33
的確な分析に感銘いたしました。
自分のブログの書き込みの、
前編でトラックバックをしたのですが、
後編の方では、紹介もさせていただきました。
あらためてよろしくお願いします。
情報学ブログ
2007/01/15 17:01

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