斎藤剛史の教育ニュース観察日記

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zoom RSS ゆとり教育と学力

<<   作成日時 : 2007/04/15 00:09   >>

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 さあ、一部の人たちにはまた困った結果が出ましたね。高校の学力テストの結果です。正確には、学力テストではなく「教育課程実施状況調査」といい、学習指導要領改訂の資料とするため数年おきに抽出調査で実施されます。


◎高3学力テスト、「ゆとり世代」で結果改善 文科省(朝日新聞04月13日)
◎高3学力低下歯止め、ゆとり世代初の全国テスト(読売新聞)
◎ゆとり教育:学力は「改善の方向」 文科省調査(毎日新聞)

資料はこちら。
◎ 平成17年度高等学校教育課程実施状況調査結果の概要
 各紙とも、すなおに学力が上がったとは認めていません。文科省も同様ですね。記述式の成績が悪いとか、理科や数学が悪いとか。しかし、全体的に見れば学力は向上していることは事実です。

 ○学力低下を指摘されたのは実は前学習指導要領の子どもだった。

 「ゆとり教育」が批判され、そによって学力が低下しているという問題は、現行学習指導要領が始まるときに世の中を席巻しました。いわゆる、学力低下批判です。文科省は当初、それを認めませんでしたが、経済協力開発機構による学習到達度調査(PISA2003)と国際教育到達度学会の理科・数学教育動向調査(TIMSS2003)の結果が2004年末に相次いで発表され、国際順位が低下したことが明らかになり、文科省は初めて学力低下を認めました。以来、学力低下は既成事実となり、学力向上路線へと変わっていくわけです。

 しかし、ここに一つの落とし穴があります。それは、PISAもTIMSSもテストの対象学年となったのは前回の学習指導要領で学んでいた子どもたちだったということです。

 つまり、学校週五日制や総合学習の導入で批判された現行学習指導要領の子どもたちの実力はこの時点では全くわかっていなかったのです。


○現行学習指導要領の小・中学生も学力は向上している。
 今回、高校生についての結果ですが、小・中学生はどうなのでしょう。実は、2005年4月に発表された2003年度小・中学校教育課程実施状況調査の結果によると、やはり学力は向上していることが分かっているのです。

 しかし、当時は既に学力低下批判が社会的に定着しており、文科省も表面的には学力向上に舵を切っていたところなので、マスコミは学力向上よりも記述式問題に成績が悪い、数学の力が落ちている、学力低下を受けて学校現場が学力向上に励んだ成果だ、などと報道しました。つまり、今回と同じです。


 ○「ゆとり教育」とは何かを精査する必要がある。
 結論を言えば、学力が低下していたのは前回までの学習指導要領で学んだ子どもたちで、現行学習指導要領の子どもたちはそれに比べると学力が上がっているということです。

 もちろん、前回学習指導要領の子どもたちの学力が低かったので、それに比べて上がっているからといって、学力が向上していることにはならない。「ゆとり教育」以前と比べれば、学力低下は依然して深刻だという見方はもちろんできます。

 しかし、完全学校週5日制、総合的な学習の時間の導入など、「ゆとり教育」の頂点といわれる現行学習指導要領が、それまでの「ゆとり教育」の学習指導要領よりも成績が上がっているというのは、「ゆとり教育」イコール「学力低下」という図式に当てはまりません。

 昔、ゆとり教育のスポークスマンといわれた文科省の寺脇研氏(現・京都造形大学教授)が学力低下を批判されたときに、単に授業時間数を減らしたそれまでの学習指導要領と、「生きる力」の育成を目指した現行学習指導要領は、同じ「ゆとり教育」ではないと発言したことがあります。当時は、失笑を買った発言ですが、ここにくると寺脇氏の発言はあながち間違っていなかったような気がします。

 「ゆとり教育」ということで、「ゆとりと充実」以来の学習指導要領は同じく批判されていますが、もっと丁寧にそれぞれの学習指導要領の成果を見直す必要があるのではないでしょうか。


 ○もっとも文科省は現行路線を見直すつもりはない。
 で、ここまで言ってきて結論をひっくり返すようで恐縮ですが、既に文科省は現行学習指導要領の「生きる力」の育成という理念を継続することを決めており、それを修正するつもりはないようです。

 そもそも、現在国会で審議されている学校教育法改正案の中にある義務教育の目標の条文には「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」とわざわざ入れてあります。

 この条文と現行学習指導要領の理念の間に、どれほどの違いがあるか説明できる人はいるでしょうか。私はできません。もっとも、この条文と同じ内容は教育再生会議の第一次報告にも入っています。文科省にすれば、教育再生会議の報告を具体化しただということでしょう。再生会議は、「ゆとり教育の見直し」を打ち出しながら、実際には「ゆとり教育」を進める内容を報告に盛り込んでいたのですね。

 というわけで、学力低下批判を受けて基礎・基本的な知識・技能の定着に力を入れるようになったものの、基本的には「生きる力」路線を文科省は捨てるつもりはないのです。

 2003年度小・中学校教育課程実施状況調査、そして今回の高校の調査でも文科省は、学力低下がないことを強調していませんし、現行学習指導要領は正しかったと勝ち誇ってもいません。それは、既に「生きる力」路線を継続することを決めているので、あえて学力問題で波風を立てたくないというのが文科省の本音ではないでしょうか。

 

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第386話≪「平成17年度高等学校教育課程実施状況調査」(学力テスト及び意識調査)結果≫
 高校生のみなさん、(^◇^)ノ お〜ぃ〜ゲンキか! ...続きを見る
HageOyaji通信
2007/04/16 07:46
学校評価が官製になりそう
 国会に上程されている学校教育法改正案の本文を読んでいて、びっくりした。学校評価 ...続きを見る
教育は制度がネックだ
2007/04/27 17:34
寺脇研を
――文部科学省としては一度も「ゆとり教育」という言葉を使ったことはないと、伊吹文 ...続きを見る
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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
気になる情報ありがとうございました。
ゆとり世代の学力はそんなに悪くないということは喜ばしいことです。ただ、成績の分布状況が気になります。二極化が進んでいてたまたま上の子達の成績が良くて平均すると良くなっていると言うことならばやはり問題になるでしょうね。
周5日制になり勉強する子はして成績がよくなり、やらない子は下がってしまったとなると、格差が広がっている現在、経済的に恵まれない子達の何割かは学力が下がりその数は増えることが予想されます。

いつも、有用な情報ありがとうございます。

so
2007/04/15 23:05
 私は高校教師をしていますが、学習指導要領が変わったところで、教えてることに何ら変わりがないように思えます。教科書は使いますが、ほとんどが副教材で授業は進んで聞きます。小中ほど学習指導要領に影響を受けていないかもしれません。
 そして、ゆとり教育といいながら授業日数は依然と変わりません。ゆとり教育などといっているのは世間一般の人だけのような気がします。
 もう一つ気になるのはこの試験のデータの信頼性です。以前同じような試験を実施しましたが、自分の成績に関わらないテストをまともに受ける生徒はかなり少数派である気がします。実際、ほとんど白紙という状態でした。どういう抽出方法だったのでしょうか?
rodo_montade
2007/04/16 14:52
soさん、コメントありがとうございます。確かに調査結果は解釈次第ですね。しかし、これはこの調査に限ったことではありません。そもそも学力低下の証拠となった国際調査の結果も解釈次第で、専門家によると日本の学力低下はないともとれるのです。役所の解釈やマスコミの報道を疑うということは、これからどんどん必要になってくると思います。
カラ
2007/04/16 17:36
rodo_montadeさん、コメントありがとうございます。この調査は、高校三年生15万人が対象で、学校は学科ごとに無作為抽出されたようです。まあ、解釈はどうあれ集計結果についてはそれなりの精度はあるものでしょう。
学習指導要領が変わっても変化なしというのは高校現場の感覚なのでしょうね。確かにその通りだと思います。ただ、必履修科目は変わるし、教科書の内容も変わります。教科書が変われば大学入試の出題範囲も変わりますし。
カラ
2007/04/16 17:45
検定教科書の使い勝手の悪さというのは、改善されたりはしないのでしょうか。検定教科書だけではきちんと学べないというのは教師も生徒も親もだれもが分っているはずです。

学力低下の問題も教科書が使いにくいということとどうしても関係があると思います。

特に英語などは、私はイギリスの教科書のような本を見たことがあるのですが、そういうものと比較すると日本の中高生用の教科書は、肝心なことをきちんと説明してくれないので、教科書だけで学べと生徒に要求するとしたら、それは間違いです。

結局は学力の格差というのは、生徒(の親や兄弟)などが保有している情報資源の格差であるように感じられてしまう。

かかか
2007/04/24 19:57

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