校内暴力とゼロ・トレランス

 THE義務教育のワタナベさんから、やはり親にしてみれば校内暴力は大変な問題ですというコメントをいただきました。私は、今回の文科省調査の小学校の校内暴力増加はおおげさに騒ぐ必要のない程度のものだと思うのですが、中・高校まで含めた校内暴力全体、あるいはいじめなどはやはり大きな問題です。そこでこんな記事をみつけました。
○「社会のルール」で副読本 違反には毅然と対応 米国型指導の研究
 「文部科学省は22日、「新・児童生徒の問題行動対策重点プログラム」(中間まとめ)を公表した。本年6月の山口県立光高校での爆発物傷害事件などをはじめ、児童・生徒による重大事件が相次いだのを受け対策を検討してきた。同まとめを受け、警察庁と共同で「社会のルール」副読本づくり、規則違反の生徒を厳しく罰する「ゼロ・トレランス方式」の調査研究に年度内に着手する」(日本教育新聞9月26日)

 少年による爆発物事件など重大な少年事件が連続していることを受けて、文科省の調査協力者会議は対策を検討していますが、その中間まとめが出たということです。具体的には、刑法や少年法などの内容、インターネット犯罪などの危険性、社会の決まりなどを開設した副読本を警察庁と協力して作成し、全国の学校に配布する。そして、アメリカで行われている「ゼロ・トレランス」(非寛容)という生徒指導方式の導入を検討するということの二つが柱のようです。副読本は、早い話が万引きやいじめは犯罪だと教えるということでしょうか。子どもは自分の行動が相手や社会に与える損害を考えないし、それがどんな罪になるのかも知らないこともあるので、ある程度有効な対策でしょうか。まあ、すごく有効とはいえませんが。

 学校現場から見ると、ゼロ・トレランス方式の導入の方が議論は大きいでしょう。ゼロ・トレランスとは、暴力事件の悩む米国で普及している生徒指導方式で、簡単に言えば、三回校則違反をしたら釈明を聞くことなく退学にするというような厳しいやり方です。校則違反に対して、即座に処分し、情状酌量はまったくしない。だからトレランス(寛容)がゼロ。このゼロ・トレランスで米国の校内暴力は大きく減少したと言われています。相次ぐ少年事件や問題行動の増加に悩む日本でも魅力的な制度といえるでしょう。高校関係者などの間では、これを導入すべきだという意見が結構多くあります。

 ただ、私はゼロ・トレランスを求める教員の声の中には、「今の子どもは教師のいうことを聞かないから、処分で分からせるしかない」という意識、あるいは「昔の子どもは校則をよく守ったから、もう一度守らせるようにしよう」というノスタルジーみたいなものを感じるのです。すべて校則で押さえつけ、子どもに言うことを聞かせていた時代、それは教員にとってはある意味で幸福な時代だったのではないかと。

 はっきり言って、日本でゼロ・トレランスを導入することに私は反対です。まず、米国は契約社会です。学校に入るときに、校則違反を何回するとどんな処分があるかを理由と一緒にきちんと説明し、保護者と子どもの同意を取ります。好き勝手に校則をつくって処分しているわけではありません。また、処分は他の子どもの勉強する権利を守るためであって、校則もそのためのものです。学習権の保障と関係ない私的領分まで校則で規制するようなことはしません。

 また、米国ではゼロ・トレランスによって退学、または停学になった子どものためにオルタナティブスクールという受け皿があります。まあ、日本の場合、義務教育の公立学校に退学はありませんが。いずれにしろ、日本の社会や学校とは前提となる意識そのものが違うのです。もし、契約社会、学習権の保障という意識の前提なしに、ゼロ・トレランスを導入したらどうなるか。私は、それができるほど日本の社会や学校が(欧米的個人主義という意味で)成熟しているとは思えないのです。ある意味で、ゼロ・トレランスは、学校を一挙に健康にするか、あるいは殺すかという劇薬だと思います。


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この記事へのコメント

THE義務教育
2005年09月30日 23:08
カラさん、こんにちは、ワタナベです。
ご紹介いただきましてありがとうございます。
私はやはり小学校でも中学校でも学校内では暴力はダメだと思います。
ただし、だからといって、暴力ダメだから「ゼロ・トレランス」導入というのも、あまりにも乱暴だと思います。
「ゼロ・トレランス」の前に、まずは「学校内でお友達を叩いたり蹴ったりしてはいけない」とか「友達をののしったり、汚い言葉を使ってはいけない」「友達を仲間はずれにしてはいけない」というような、基本的なルールをきちんと確立して守らせるこが大切だと思います。こういうことは学校でのルールであり、また社会生活を行う上での基本です。
そして、そういうルールを破った場合には、それなりの罰(廊下に立たされる、校長先生の面談など)を受けるという仕組みを学校と保護者が協力してつくり、運用することで、学校が落ち着くと考えています。
学力テストにしても、ゼロ・トレランスにしてもイギリスやアメリカのいいところの上っ面だけ持ってきても、うまく行くはずはないです。その点ではカラさんとまったく同意見だと思います。
カラ
2005年10月02日 15:01
ワタナベさん、コメントありがとうございます。まず、最低限のルールの徹底、これは必要ですね。
でも、先生方に言わせると、それは学校がやることではない、こんな最低限のことは家庭でやってくれということになるかもしれません。それができないから、学校はいまや家庭との消耗戦を強いられている。
私、ルールを知らない子どもの保護者を学校に呼んで、保護者自身で子どもに教えさせたらよいと思っているのですが、、、、無理だろうなぁ。こんどは保護者の教育が学校の仕事になるからなぁ。いっそ、PTA主催で親の教育講座をしてみたら、、、私はとても提案できないけど。
有意水準
2005年10月13日 22:33
今は親と先生の信頼関係が成り立っていないことも原因の1つではないか、という気がします。親は「この先生は変なことをしないだろうな」という批判的というか監視するような目で見るし、先生は「理不尽な文句を言ってくる親かもしれない」とかまえているような感じです。そのため、先生は毅然とした態度で子供を叱りにくいし、親はちょっとしたことで先生を批判するし。
お互いが相手を信頼していないのですから、教育もへったくれも無いですよ。
カラ
2005年10月17日 03:13
優位水準さん、かってにトラックバックさせていただいたのに訪問ありがとうございます。
確かに教員と保護者の間の信頼関係はだんだん希薄になってます。だからこそ、安易にゼロトレランスなどのマネ事をするのはよくないと私は考えているのですが。学校は学校、家庭は家庭と互いの役割を割り切れば、ゼロトレランスも有効なのでしょうが。
nin
2005年10月17日 10:21
カラさん、はじめまして。
いきなりゼロトレランスを導入しても、うまくいくはずがないと僕も思います。学校は社会性を身につけさせる場所でもあると考えると、罰を明示してルールを守らせるようなことをしただけでは社会性や道徳心は身に付かないと思います。
むしろ、ダメな子は切り捨てるというような制度になりうるとも思ってしまいます。
rabbitfoot
2005年10月17日 16:36
TBありがとうございます。
大学のコンパで未成年が飲酒しても、禁煙場所で喫煙をしても、車を運転する時に信号無視したりスピード違反したり飲酒しても、「ちょっとくらいええやないか」ということが許されているような“あいまい”な日本社会で、学校の塀の中だけでやっても実効性が薄いような気がします。
中学時代、髪は肩上○センチ、スカートの丈は○センチ、靴下や靴、カバンの色まで指定されるような校則を「守って」はいましたが、精神的には反発心しか起きませんでしたね。
カラ
2005年10月18日 00:31
ninさん、rabbitfootさん、御二人とも訪問していただいた上にコメントまでありがとうございます。
ゼロトレランスは、学校とは勉強するところであるという米国の学校観が背景にあると思います。それに対して日本の学校は、勉強だけでなくスポーツ、芸術、はては社会性や道徳まで身につけるところという国民的認識があります。ゼロトレランスは、ほかの子供の学習権を守るためであり、罰によって子供を矯正しようなどとは全く考えていません。学校観が違う日本で、ゼロトレランスを導入すると非常に困ったことになると思います。
英語教師
2006年06月18日 19:18
 がっかりしますね。理論だけで物を言う人。一日でいいから、荒れている学校(小学校でも中学校でも)をじっくりみてほしいものだ。秩序のないメチャクチャの中で馬鹿を見ているのは教員だけですか?7~8割の一般生徒でしょ。私は縁あって、アメリカのかなり危険な公立学校で教える機会がありましたが(1995年)、それでも現在の日本のように生徒の幼児的なわがままをコントロールできないような腐りきった場面はなかったな。(全米ワースト10の都市の話ですよ=年間500人近くが殺されるような)。ここに投稿しているしている人もそうだけど、言葉や概念をもてあそんでどうなるの?私立だけよければいいの?まあ、とにかく現場を見るんだね。メチャクチャですよ。メチャクチャ。日本のお先真っ暗とは思わないのかなー。
カラ
2006年06月18日 20:16
英語教師さん、コメントありがとうございます。現場で苦労している方から見れば、確かにきれいごとでしょうね。それは認めます。

私は、厳しい生徒指導が必要ないと言っているつもりはありません。学校の実態によってそれこそケースバイケースだと思います。

しかし、それを国が音頭をとって全国的にやる必要はないし、ゼロトレランスをすべての学校に導入する必要はないと述べているだけです。

自分たちの学校が悪い、何もできない、だから国や行政にたよって、全国一斉に厳しい生徒指導をというのは、社会のためにあまりよいことではないと思います。それはどこからが厳しいのかという線引きを国にゆだねてしまいかねないからです。

ちなみに私は、きちんと授業が成立するように指導することを厳しい生徒指導だとは思ってません。

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